開会の挨拶―大平勝美(社会福祉法人はばたき福祉事業団 理事長)

2007.10.19

 本日はご来場ありがとうございます。

 只今は、厚生労働省の黒岩嘉弘様から、シンポジウム開催に向けて、大変勇気付けられるご挨拶を賜り、大変有難く存じます。

 さて、HIV感染者就労のための協働シンポジウム、名前が示すように、HIV感染者や雇用する企業、就労を斡旋していただくハローワークなどの機関、そして行政がHIV感染者・障害者の雇用について一歩踏み込んで、協働して雇用の促進を実現したいと開催準備をしました。特に、当事者が黙っていても、社会は変わらないという経験は、HIVを背負って20数年の生きてきたところで身にしみています。
私事ですが、私は血友病患者で薬害HIV感染被害者です。これまで、HIV医療の改革、HIV感染者を感染症の社会差別的対象から、社会福祉の対象として社会があたたかく接することを目的に内部疾患の身体障害者にする提起をしたり、社会の差別/偏見の解消を求めて国と協議したり力を注いできました。

 現在も社会福祉法人としてHIV感染者にかかわる身体障害者の相談事業等、HIV裁判和解に起因する恒久対策やその社会還元に努めています。

 エイズの偏見/差別は80年前半に始まりますが、およそ25年が経過した現在、その当時の、恐怖の差別扱いは随分薄れました。しかし、HIV感染者が生活する場面で、エイズに対するスティグマはしっかり残っていて、未だに身内、周囲の近しい人にさえ感染者であることを告げることでどんな差別的対応を受けるか、感染者は未知の不安を持ち、特に生活を支える就労の場面で、病気を伏して就労しつづけるストレスは耐えづらいものがあります。端的に言えば、20数年、エイズへの偏見/差別は社会や個々の人の中であまり変わっていないともいえます。しかし、社会や人に染み付いている偏見は、当時者から見て社会の変化を待っていてもそう簡単に変わっていきません。それは、社会、近しい周囲の人も、HIV感染や感染者の姿、生活を知らないという状況のまま、当たらず触らずの態度、対応が続いていることに尽きると思います。その象徴が、感染者が社会参加する際の雇用の場面で、雇用者側は感染者の医療・病状の現実を知らず、知らない不安を理由に断り、感染者は病名を言うことで不利益を被る大きな不安におびえます。

 双方が様子見のこう着状態で、せっかく就労の安定も視野に入れた免疫不全の身体障害者認定後も、10年経て変わらない実情と実感に、もう社会が変わることを待っていてもいつ変わるか、変わらないまま偏見/差別だけが温存されてく可能性があるだけではないか。それなら当時者側からより積極的に動き出そうと、HIV感染者の就労偏見(雇用者も当事者も)を変えてしまおうと、このシンポジウムを企画しました。医療でも患者参加型医療を推進していますが、20年へて、当時者が限られた範囲で、勇気を持って就労の機会や就労の継続を安定化するため、自分を打ち明けて、自らが信頼できる環境をつくる行動をとる時が来たことをアピールする契機にしたいと考えています。誰にも進めるということではないのはもちろんですが、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害の手帳を所時している人が感染者約12,000人のうち、すでに7千人もいるところで、この所時している手帳を活用して、安心でき安定した就労を確保することの一手段して目指してもらいたい。

 自分を人に知ってもらい信頼できる環境をつくる努力を、当時者がいわば生活を懸けて挑戦していく勇気を行政、医療福祉関係者、なによりも雇用者側で踏み込んで受け止めてもらい、積極的に雇用の推進につながる強力なサポートを推進していただきたい。

 本日は、当事者が薄いベールを剥ぎ社会参加に意欲を持って一歩踏み出すための、実際の体験を語ります。また、医療の現実、健康保険等プライバシー保護の制度、企業側の雇用の現状や意欲など基調講演やパネルディスカッション等を通して、強力な雇用の推進やサポート提案があると思います。

 微力ですが、私ども、そして関係団体を通じて積極的にこのシンポジウムの内容を伝えていきます。当時者に求められるものも含めて、関係者が協働してさらに希望ある社会実現に踏み込んでいただけることを願っています。

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