『HIV感染者就労のための協働シンポジウム2009』報告会レポート

2010.3. 4

◇シンポジウム報告会リポート◇

社会福祉法人はばたき福祉事業団では、2007年より『HIV感染者就労のための協働シンポジウム』を実施しています。
シンポジウムは東京開催であるために、その成果報告会を各地で行っています。
東京、大阪、福岡での報告会の様子をリポートさせて頂きます。

冒頭、埼玉大学准教授でシンポジウム委員会の委員長でもある関由起子氏から『協働シンポジウム3年間の取り組み』というテーマでご発表頂きました。
第1回目は就労をテーマにした会であるのにも関わらず、企業からの参加はわずかに2社であったことや、ハローワークの職員でさえも、HIV感染者が身体障害者手帳の取得対象者であることを知らない、という状況でした。
しかしながら、この取り組みを経て、2009年は企業からの参加が50名にまで増え、また各地のハローワークで手帳を使って求職する人たちの成功事例が聞こえてくるようになったと、報告して頂きました。

関委員長からの報告を受け、その後は各地の事情に合わせた講演者をお招きし、ご発表して頂きました。
昨年秋から、民間の人材派遣会社の方が関心を持って取り組んで下さっていることもあり、『民間企業から見たHIV感染者の就労』というテーマでご発表頂きました。

 

◇大阪報告会◇

大阪では昼と夜の2回行いました。
まずは1月28日に梅田センタービルにて、昼の会を開催しました。
この会には、株式会社インテリジェンスの大濱徹氏にご参加頂きました。
人材派遣会社の機能や事業の内容を導入に、障害者採用を取り巻く社会の現状を解説して頂きました。
それを受けて、大阪医療センターで医療ソーシャルワーカーとして、これまで800名のHIV感染者と向き合ってきた岡本学氏より、情報提供をして頂きました。
就労中に突然感染が分かった方の心理状況や、彼らが抱える「誰かに感染させてしまったらどうしよう」という漠然とした不安感をどうサポートしていくか、といったお話を頂きました。

夜の会は2月18日に阪急グランドビルにて行いました。
こちらには、マンパワージャパン株式会社から小島太郎氏がご参加して下さりました。
今年夏の法定雇用率の一部改正に伴う障害者雇用の動向予測を冒頭に解説して頂きました。
また、一般企業の方のほとんどが、HIV感染者が手帳を持っていることを知らない、という現状を、ご自身の経験を基にお話頂きました。

大阪報告会は、事前にエフエム大阪の番組内で告知して頂いたこともあり、2回とも20名近い方々にご参加して頂くことができました。
大阪という土地柄からか、質疑応答の時間は大変盛り上がり、充実した会となりました。

 

◇東京報告会◇

東京での報告会は2月3日に、コンファレンススクエア・エムプラス・サクセスにて開催させて頂きました。
この日は報告会にも関わらず、80名の方にご参加頂くことが出来ました。
参加者数の増加からも、この問題に関する認知の高まりを感じることができました。

講演者には、NPO法人ぷれいす東京で専任相談員を務めていらっしゃる生島嗣氏と、国立国際医療センター「エイズ治療・研究開発センター」の本田美和子医師をお招き致しました。
生島氏からは、ぷれいす東京に寄せられるHIV感染者からの相談を中心にお話頂きました。
最も印象的だったのが、日本社会には「HIV感染者は周囲にいない」という前提があり、その上で意識が形成されているというお話でした。
本田医師には、導入としてHIV医療の進歩に関して言及して頂き、医学的にはHIV感染者が働くことには支障がないということを、力強くご発言して頂きました。

その後は、フロアーの参加者とパネリストとが「協働」して取り組んでいく、という趣旨のもと、就労座談会を行いました。
様々なお立場から、この問題に取り組まれている方にご発言頂きました。
お互いがどのような意識や理念を持って活動しているのか、またその成果や教訓を共有することで、全体の底上げを目指しました。
また今後も、このような機会を設けることで、広がり始めた「協働の輪」を益々大きな円にしていきたいと考えております。

 

◇福岡報告会◇

福岡では2月23日に天神にあるエルガーラホールにて行いました。
開催直前に、西日本新聞に告知記事が掲載されたこともあり、平日の開催にも関わらず、30名近い方々にお集まり頂けました。

関委員長の発表を受けて、まずは株式会社ゼネラルパートナーズの池辺誠氏にご登壇して頂きました。
こちらは、障害者雇用を専門にした人材紹介を行っている企業で、HIV感染者の就労が、障害者雇用という大きな枠の中でどこに位置するのかを、丁寧にご説明頂きました。
また発表の中では、最近就職が決まった感染者の方の事例紹介などもご紹介頂きました。
続いて、福岡市障がい者就労支援センターの黒田小夜子氏から、福岡市が提供している就労支援の社会サービスに関してご紹介頂きました。
また昨年夏に同センターの職員に向けて、はばたき福祉事業団はHIV感染者の就労に関するワークショップセミナーを行いました。
それを受けての、参加者の意識の変化や体験してみての感想についてのご紹介をして頂きました。

質疑応答の時間には、就職活動中の当事者の方からのご発言を頂き、会場全体で「彼を応援していこう」という雰囲気が生まれ、暖かい形で会を終えることが出来ました。

 

◇まとめ◇

4回の報告会を通して、感染者の方から積極的なご発言を頂けたことが、大変印象に残っています。
これまでは社会の偏見から身を潜めがちな状況がありましたが、当事者の方の間でも「自分から一歩進んで行かないと」といった、雰囲気が生まれてきたのだと感じました。

また昨年から、民間の人材派遣会社の方が、非常に熱心に取り組んで下さっています。
HIV感染者の就労の状況を、客観的な立場から分析し、また企業の方を対象に調査した上、この問題の改善に向けた戦略を練られています。
その視点やご意見は、私たちにとっても新しい気付きを与えて下さいました。
ビジネスの第一線で活躍していらっしゃる方々が、こうして暖かく応援して下さっているのが、感染者の方にとっても励みになっています。

今年で、はばたき福祉事業団が就労支援に取り組みはじめてから、4年目を迎えます。
地道な取り組みではありますが、社会全体での、とりわけ企業側に問題への認識が広がってきたことや、当事者の意欲が確実に高まってきています。
関心が集まりつつある今、より良い方向に進めていけるよう、引き続き取り組んで行きたいと思っています。

 

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